表題番号:1995A-166 日付:2002/02/25
研究課題世界経済のリージョナル化と多国籍企業の新戦略
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 助教授 長谷川 信次
研究成果概要
1980年代半ば以降急速に進展した日本企業のグローバル化は,90年代に入ると国内経済の低迷とともにいったんは後退するが,93年後半から再び加速を始めた。こうした企業グローバル化の動きと平行して,国際貿易の場面で地域経済圏を形成する動き(リージョナル化)が,北米,アジア,ヨーロッパの少なくとも3ヶ所で同時に進行しつつある。
地域経済圏の形成は
1)生産要素市場と製品市場の両面での市場拡大,
2)資源の再配分,独占力の低下,X効率性の改善,R&D投資の活発化を通じた現地企業の所有特殊的優位の強化と,それに対抗した日本企業による戦略的市場コミットメント,
3)現地進出済みの日本企業による既存事業の再構築,
4)地域経済圏の要塞化とその結果としての貿易転換効果に対する市場防衛,
を通じて,企業が多国籍化する際のインセンティブとなる立地上の優位性を形成する。この点で,世界経済のリージョナル化が企業のグローバリゼーションを加速したということができる。しかしながら同時にまた,企業による海外直接投資が国際的工程間分業と国境を越えた企業活動のネットワーク化を通じて,地域経済圏内の国家間の相互依存性を高めるという側面がある。リージョナル化が企業のグローバル化を促すだけでなく,後者が前者のリージョナル化をよりいっそう強固なものにする。両者は単純な因果関係というより複雑かつダイナミックな相互作用の関係にある。
企業グローバル化にとって上述の立地優位性だけでは不十分で,所有優位性と内部化インセンティブが同時に備わって初めて必要十分となる。所有優位性については,外的ショックを契機としての資源節約型産業へのシフトというマクロレベルでの対応と,そこでの効率的な生産システムの確立とマイクロエレクトロニクス技術の活用というミクロレベルでの対応が組み合わさることで獲得された。
しかしながらそうした所有優位性に基づいた日本企業の対外進出が,中間財,差別化製品,経営資源の市場取引にかかわる取引コストを迂回するために,必然的に内部化されることで行われるとする既存の理論仮説はあまりにナイーブすぎる。市場に代わりうるのは内部化だけではない。経営的に独立した企業間であっても,長期継続的取引やコミットメントを伴う取引のもとでは非公式のコントロールが発生し,機会主義的行動が抑制される。それは内部化と並んで,市場の不完全性を克服する手段となりうるからである。またそれだけでなく,内部化がもつさまざまなデメリットを克服することにもつながる。
こうしたいわゆる中間組織的な取引形態は,国際的な合弁事業や戦略提携という多国籍企業の新戦略として現れてくるのであるが,この新しい形の企業グローバル化が伝統的な形を補完する形で,企業のグローバル化と経済のリージョナル化が相互作用を行ないながら進展していくのが今日の状況である。