表題番号:1995A-165 日付:2004/03/09
研究課題日本企業における企業金融と株式所有構造の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 井上 正
研究成果概要
日本企業の取締役会は,実質的には生え抜き経営者の集まりであり,これに銀行などの少数の部外者が含まれているにすぎず,社長は通常は前任者が指名する。それゆえ,株主総会が経営陣の選出,管理,監督などに対してもっている実質的権限は非常に限られている。その結果,日本企業での株主の立場は,一見したところ非常に弱いように見える。また,テイク・オーバーなどの試みは,株式持ち合いなどの防護策のために,実行されることは稀である。さらに,株主の弱い立場を立証する例として,株式の平均配当が株価に比べると低いということもあげられる。このような事実から,日本企業は,実質的にはその従業員に支配され,彼らの利益のために運営されているという見方がある。しかしながら,日本企業に対するこうした見方に対して,次のような反論がある。日本企業が本当に従業員のものであるならば,会社が苦境に陥った場合には従業員の集団は,より鮮明なコントロール権を主張する力があるはずであり,昨今のように従業員が自らの犠牲のもとに解雇されるのはなぜか。年配の従業員は,長年勤務してきたのだから企業の所有権に関しては一番強い立場にいるはずにもかかわらず,一番解雇されやすいのはなぜか。
本研究から,明らかになったことは日本企業の株式保有の構造と企業金融に関する事実から,株主の地位は過去に比べ低落してきたように見えるが,日本企業は依然株主に対して,少なくともアメリカ企業に匹敵するぐらいの収益率を生み出してきている。その結果,株主は企業の支配的位置にいるわけではないにしても,日本企業は従業員集団に支配されて,株主は何の権限もないというわけでもないということがわかった。すなわち,株主は日本企業の安定した構成要素の一つであるということが明らかになった。