表題番号:1995A-162 日付:2002/02/25
研究課題日本文明史の構想-ポスト冷戦の国際秩序に向けて
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 池田 雅之
研究成果概要
本研究は,ポスト冷戦下におけるあらたな日本の文明史的アイデンティティーを模索しようとする試みである。冷戦時のイデオロギー的束縛からの解放,欧米中心指向(価値観および歴史観)への反省と共に,今一つの時代が終焉した感が深い。しかし来るべき新しい時代は,どのような貌(かお)をしているのか,いまだ見きわめがたい。本研究が,その問題にいささかでも光を当てることができればと考えている。
ある識者は,今日の時代を覇権主義の終焉から文明間の衝突の時代への移行期と見なしている。またある学者は,欧米文化中心の時代が終り,アジアの時代が始まったと考えている。この大転換期に当り,私たちは,従来のイデオロギー的思考や欧米中心主義の歴史観を洗い直し,日本の文明史をあらたに構想する必要性を痛感している。そして日本文明が,今日の世界的な新無秩序(カオス)に対して,どのような文明の協調システムを指示できるかもあわせて考えてみたつもりである。
本研究において取り組んだテーマは,大きく分けて二つある。
(1)「西洋文明と日本のアイデンティティー」
日本文明を西洋の下位文明としてではなく,双方をパラレルに見直してゆく。比較文明論の視点に文明史のパラレリズムという方法を導入することによって,日本的立場から西洋文明の問題点を抽出していくことが可能である。
(2)「日本文明の西欧文明受容・拒否のパターン」
このテーマについては,15世紀のマルコ・ポーロの時代から19世紀中葉の鎖国・開国期になるまでの西洋の日本観や交流のあり方の変遷を辿ることによって,明らかにすることをめざした。もう一つは,鎖国時代を比較文明論の観点からその功罪を洗い直す作業を行った。江戸時代の文明的可能性を掘り起こす試みである。
以上,欧米のみならず,アジアとの交渉史も視野に入れ,さらにこれからの日本文明の役割とあらたなアイデンティティーをさぐっていきたいと思う。