表題番号:1995A-155 日付:2014/04/01
研究課題日本近代,明治期を中心とした伝統大工技術の展開,変質についての調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助手 中谷 礼仁
研究成果概要
本研究は伝統的な建築技術の特性を踏まえたうえで,なお明治以降の時代的文脈,ならびに日本国内にかかわらずより世界的な場所における日本の伝統建築技術の具体的な展開とその意味を明らかにすることを目的としている。申請者はその基礎的研究として近世からの架構技術が明治以降にも応用展開された領域である規矩術を分析対象とした。規矩術とは,特に納まりが煩雑をきたす軒廻りを曲尺(さしがね)によって把握,計画する技術である。公刊規矩術書が近世末期から流布しはじめ,近代以降を通じ和洋を問わず広く施工者層に流通していた事実は,近世から近代の連続面を考える上で多くの点を示唆するものだからである。
1995年度はまず現存する近世から明治にかけての規矩術書のリストアップならびに収集に努めた。国会図書館発行の『国会図書館蔵書目録明治期第4編』中「建築」の項で該当しうる書籍の約半数(80件程度)を複写した。現在その3割をゼロックスとして,残りをマイクロフィッシュとして整理保管している。
次に収集した上記文献をもとにして,今年度の主眼である規矩術の幕末から明治にかけての変遷過程を整理,分析を行った。それらを巨視的に扱うために,規矩術書の内容をその目次構成を中心として整理分析した。具体的には幕末期規矩術の代表的著作の言及対象を分析しその項目構成を明らかにし,次に明治以降規矩術書に上記項目構成を当てはめて分析し,明治期における規矩術書の構成の変遷を明らかにした。と同時により詳細に分析した場合,扇軒を代表とする特定様式に付随した規矩術の形骸化・多角形割ならびに振れ軒,多角形軒等の西洋建築を含む各種様式を通じて,より応用性の高い項目の普及が,明治以降規矩術を全体的に把握した場合における特徴であることを明らかにした。明治以降規矩術はその形式的継承性を保持しながらも,近代の新しい文脈に対してより実践的な性質を持つようであったように見受けられる。伝統的技術の近代における継承的変質の問題を考える際に規矩術書研究は有効な史的対象であるように思われる。
来年度においてその継承的変質の具体的詳細,あるいはその主体となった著書-規矩術者自体の分析を行う予定である。