表題番号:1995A-129 日付:2002/02/25
研究課題反応拡散方程式系および関連する楕円型方程式系の解集合の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 山田 義雄
研究成果概要
当研究では反応拡散方程式系のなかでも,とくに相互作用が低階の非拡散項のみならず,高階の拡散項にも非線形拡散として影響を与えるようなモデルを中心に有界な大域解の存在や関連する定常問題の解集合の構造を調べた。
数理生態学における "biodiffusion" のなかには "cross-diffusion" と呼ばれる重要な非線形拡散がある。
同一の領域で生存競争している2種以上の生物の固体密度を未知関数として定式化すると,"cross-diffusion"の効果により,拡散係数が固体密度にも依存するような準線形拡散方程式系となる。このようなモデルは1979年に提起され,数値実験では分岐やパターンの形成などの興味深い現象が見られるにもかかわらず,理論的なメカニズムの解明は十分ではない。とりわけ,正の定常解は共存解として重要であり,いかなる条件で存在するか,安定であるか,一意的に決まるかなどその解明が待たれる。筆者の研究グループでは,一昨年度,正の関数が作る錐集合上の写像度の理論を適用することにより,正の定常解が存在するための十分条件を発見することに成功した。昨年度の研究においては,分岐理論を組み合わせることにより,定常解はいかなるときに安定となるか,またいかなる状況で2種類以上の共存状態が起こり得るか,より深い理解をめざした。"prey" と"predator" の生存競争モデルにたいしては,"cross-diffusion" の影響による拡散が大きくなればなるほど,適当なパラメータ空間における共存領域が小さくなる,などの点で非線形拡散が共存状態に対して負の作用をすることが示された。また,分岐の方向を調べることにより,複数個の共存解もあり得ることが知られてきている。これらの結果は,"Positive steady-states for prey-predator models with cross-diffusion"(Adv.Differential Equationsに掲載予定),"Coexistence states for some population models with nonlinear
cross-diffusion"(Formaに掲載予定)らの論文にまとめられている。