表題番号:1995A-110 日付:2002/02/25
研究課題自然哲学の脱テクスト的探求の試み
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学部 教授 八巻 和彦
研究成果概要
本年度は三年計画の第一年として,テーマを「書物としての自然」という西洋の伝統にしぼって研究した。
その中で,先ず書物および読書についてのイメージを固定するべく,その有り方の歴史的変化を研究し,以下のようなことを明らかにした。例えば,1) ヒエロファニーの場としての「聖なる書物」から,自分が必要とする知識を得るための場である「道具としての書物」へと,書物の概念が変化したこと,また,2) 巻物から冊子本へと書物の有り方が変化したことと,それに伴い,それぞれの書物を読書する場合の形態が変化したこと,さらに,3) 中世末までは音読が一般的であったが,それ以降知識人の間では黙読が一般化したものの,庶民の間では19世紀中期まで音読が一般的であったこと,というような,西洋に生じた歴史的変化である。
次に,このような歴史的変化が,「書物としての自然」の「読解」,即ち自然研究の有り方に平行的に影響を与えているのではないかという推測のもとに,調べてみた。すると,ほぼその通りの事態を摘出することができた。例えば,西洋における近代自然化学の成立とその発展は,自然という書物を読解するというメタファーが,上記のような書物と読書の歴史的変化と即応しつつ,極めて有効に働いた結果であることが明らかになった。
このような成果の一部は,昨年秋ボン大学での招待講演および今春の京都での日独コロキウムで発表した。