表題番号:1995A-087 日付:2002/02/25
研究課題発展的様相を示す農山村の諸条件の検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 宮口 とし廸
研究成果概要
本研究の目的は,わが国の農山村が全体としては衰退の傾向にある中で,比較的発展的な様相を呈していると考えられる事例について,その基本的条件を整理検討することにある。研究対象としたのは,青森県相馬村と熊本県小国町である。
相馬村は,現在一人当たりリンゴ生産出荷額が日本一の自治体であり,農業そのものの発展的展開に成功している。また小国町は,山村の構造変化の時期に「悠木の里づくり」と題するソフト戦略を展開し,住民の意識改革から地域社会の発展的状況を作り出した。今回の現地調査から得られた知見は,次のように整理できる。
1. 相馬村は基本的には水田農村であったが,早い時期にまぐさ場をリンゴ園に転換したことに加え,もと入会林野であった暖斜面を購入することによって,農地に執着する東北農村の中で,比較的スムーズに経営面積を拡大することが可能になった。
2. リンゴ栽培は機械の導入が困難で労働力の投下量が多いにもかかわらず,現在相馬村においてある程度の大規模経営が成り立っているのは,弘前市から近く,臨時労働力として弘前市の主婦層などを雇用することが可能なためである。
3. このように発展的な取組が生まれてきたのは,中堅農家が集落を超えて連絡を取り合い,時代を先取りした展開ができたためである。
4. 小国町においては,地元産の杉を利用した斬新なデザインの建築を拠点とし,その建設の過程にかかわった人々が,従来の集落中心の人間関係にとらわれない新しい生き方を見いだした。
5. ある時期地域を支えた林業の体制を,革命的に変えて若者の職場とすることに成功した。
6. 集落を超える旧村単位の土地利用計画チームが,熱意のある若者の参加で活動を始めた。
以上の知見から考えられることは,新しい人が活躍できる農山村の実現のために,少なくとも集落の枠を超えた単位で地域社会を考えていくことの必要性である。