表題番号:1995A-074 日付:2002/02/25
研究課題一次遷移初期段階における地衣と蘚の果たす役割について生理生態学的研究I
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊野 良夫
研究成果概要
富士山御殿場登山口は標高約1450mにあり,これから上部は火山礫からなる裸地がひろがる。裸地にはフジアザミが散在し,イタドリ,オンタデ,ミヤマヤナギなどからなるパッチが海洋にある島のように点在する。
よって,この地域は一次遷移初期の段階にあると言える。1500mから1650mにあるパッチの周縁にはシモフリゴケやハイスナゴケ(蘚類)が生育し,さらにその外側にハイイロキゴケ(地衣)が礫に付着している。
この研究ではシモフリゴケ,ハイイロキゴケの遷移に及ぼす影響を調べるために二つの目的を設定した。
1. パッチのまわりのシモフリゴケとハイイロキゴケの分布を決定している要因は何か。シモフリゴケはパッチに近いことによって良好な水環境を獲得しているのか。
2. シモフリゴケ,ハイイロキゴケは地表の突起物として,種子の捕獲に効果的であろう。そして,地表面を直射日光から遮るために,強度の乾燥を防ぎ,種子の発芽に効果をもつのではないか。
1について。1986年にシモフリゴケとハイイロキゴケの群集内に50cm四方の区画10個を設定した。以後,毎年これらの区画を真上から写真に撮り,ふたつの群集の境界の変化を記録した。これらの写真をCD-ROMにおとし,パソコンを使った画像解析によって,境界の変化を追跡した。現在解析中である。
2について。蘚あるいは地衣群集の中に維管束植物の幼個体や実生が少数認められる。これらの数は強度の乾燥,高温にさらされる裸地よりも多くはない。このことから蘚,地衣が発芽阻害あるいは成長阻害の作用をもつことが予想される。蘚あるいは地衣の水侵出液を使って,現地で採取したイタドリ,ススキ,クサボタン,フジアザミなどの種子の発芽テストを行っている。また,1995年10月に採取した種子を現地の蘚あるいは地衣の群集内につくった実験内に約300粒ずつ蒔いた。これらの発芽を1996年に観測する予定である。