表題番号:1995A-073 日付:2002/02/25
研究課題経済現象における非線形性の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 稲葉 敏夫
研究成果概要
幾らか周期性があるものの不規則的挙動を示すことの多い経済時系列を,非線形性の観点から分析した。主として以下の2点に焦点を絞って研究した。一つは,経済変数間の動学的関係の抽出であり,他の一つはノイズが非線形関係に及ぼす影響である。
経済変数間の動学的関係の抽出については,四半期国民所得系列データの多数の系列の3次元埋め込みを行い,軌道を再構築し,それらのポアンカレ断面及び断面上の性質を調べた。その結果,国内総生産,民間設備投資そして民間住宅投資のデータに関しては決定論性,とりわけカオスの可能性があることが示された。従来時系列データにおけるカオスの判定は相関次元,リャプノフ指数などが使用されてきたが,それら指標について問題点が指摘されていることもあり,本研究においては従来とは異なった観点からデータの性質を判定した。
経済系が社会システムにおけるサブシステムに過ぎないのであれば,政治などの他のサブシステムとは独立しているとは考え難い。他のサブシステムからの不断の影響を受けていると考えた方が自然であろう。その様な不断の影響をノイズとしてとらえ,非線形の経済系の挙動がノイズによって如何に影響を受けるかを調べた。
これまで幾つかのシミュレーションによって示されていることは,周期的な軌道はそれほど大きくないノイズによって周期性が弱まりはするが周期そのものは保存される。また非周期的な軌道にあっては不規則性が一層強くなることである。
これに対して,周期アトラクターの窓での周期は極めて小さなノイズによってさえもカオテイックとなることがあるのを示した。また不規則生の極めて強い状態においてノイズは規則性を強めることをも示した。