表題番号:1995A-056 日付:2002/02/25
研究課題播磨国における荘園公領制の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 海老澤 衷
研究成果概要
中世における土地制度は網野善彦氏の大著『日本中世土地制度史の研究』(塙書房,1991年)によってその大枠が示された。氏によってこの時期の土地制度は「荘園公領制」と名付けられ,現在この水準を超える研究は存在しないが,なお二つの課題が残されていると言えよう。一つは網野氏の研究が近畿および東国をフィールドとして行われたことであり,西国の問題はあまり視野に入っていないことである。いま一つは中世前期についてはきわめて詳細に論じられて荘園公領制の形成過程においては近畿および東国に関する限り問題が出尽くした感があるが,中世後期については若干の見通しが述べられているにすぎないことである。
このような研究状況の欠落を補うために,主に西国をフィールドとし,中世土地制度の具体的状況を明らかにするため播磨国を選んで研究を進めた。対象としたのは,(1)東大寺領大部荘(現在の兵庫県小野市周辺),(2)法隆寺領鵤荘(現在の兵庫県太子町周辺),(3)東寺領矢野荘(現在の兵庫県相生市周辺)の3ケ所である。
このうち,とくに(1)の大部荘については,現地調査を行ない,その領域等の確認を行うとともに,荘園公領制の変遷に重要な意味を有する次の諸点について詳しく調査を行なった。列挙すると次のとおりである。垂井住吉神社・島田出水・岩窓神社・王子出水・王子観音堂・敷地町墓地・いぼの薬師・かんだに池・新大川橋・旧寺井堰・旧高田下井堰・六ヵ井取入口・地蔵池・浄土寺・中島埋墓・大池・熊野神社・権現池・南池・雲光寺・高塚山である。これによって,加古川流域における荘園公領制の一断面に関して多くの知見を得ることができた。とくに鎌倉時代初期にこの地の開発にあった俊乗坊重源の活動については従来以上に高く評価すべきことが明らかになった。