表題番号:1995A-055
日付:2002/02/25
研究課題家族主義イデオロギーの思想構造と社会的機能に関する歴史社会学的研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学部 | 教授 | 和田 修一 |
- 研究成果概要
- わが国の近代化の歴史的プロセスのなかで官制のイデオロギーとして国民の思想・行動を全面的に支配してきた,いわゆる「家族主義的イデオロギー」に関して,その成立の歴史的背景・思想構造の特徴・わが国の近代化に及ぼした影響等を中心にして,かつアングロ・サクソン文化圏のなかで「パターナリズム」として同定されている価値思想の思想構造と社会的機能との議論を手がかりにして,歴史社会学の理論枠を用いて分析した。わが国の「家族主義イデオロギー」の社会的位置づけを英国におけるパターナリズムのそれと比較して考察するとき,次のような特性を指摘できることを明らかにした。いずれの場合にも,近代化のブロセスの中で助長されてきた社会・経済上の階級分化を「家父長制」を基礎にしたイデオロギーによって統合を計るという社会的役割期待に関しては共通しているのであるが,近代化の歴史的プロセスが大きく異なっていたことによって(わが国は英国から,例えば社会有機大説などを通して,そのイデオロギー形成においては非常に大きな影響を受けたにも拘わらず),社会通念として望ましい権威関係のあり方に関わる社会意識の構造上において,その後の社会構造化に関して無視しえない相違点を生み出した,ということである。
勿論,今時の大戦を境にして戦前の超精神主義的・超国家主義的家族主義イデオロギーはその制度的存続基盤を完全に失ったのではあるが,戦前の日本人の社会意識のなかに育まれた「権力へもたれ掛かることによって権力関係を望ましい方向へ誘導する」という支配構造における人間関係形成の戦略は、ある種の「国民性」として維持され続けているように思われるのである。こういったイデオロギーが,わが国の戦後の右肩上がりの経済成長を可能にしたひとつの要因でもあり,またその経済成長のなかで,内容の修正を迫られているというよりはむしろ強化されてきた,という側面も看過できない,ということも指摘しておきたいと思う。