表題番号:1995A-054 日付:2002/02/25
研究課題ウル第三王朝時代ウンマにおける神殿奉納物受領者
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 前田 徹
研究成果概要
神殿とは一義的には神々を祭る場所であるが,一個の経営体でもあった。ウル第三王朝時代シュメールの各都市は,各都市の支配者が管轄する王の家産的経営体と神殿の二重の構造になっており,さらに王の家産的な組織においては支配者一族の経営体が独立的に存在した。同様に神殿とされるものも,中心とその周囲をとりまく二重になっていたのではないかと考えられる。そのことを検証するために,奉納物と定期支給各々の受領者を特定することが本課題の目的であった。奉納とは,都市の各層からの持参物(mu-tum2)であり,定期支給(sa2-dug4)は,神々への月単位の奉納や,神殿に奉仕する者への食料支給などのことである。
持参は,主神シャラの各神殿や,ニンウルラ神の神殿のようにウンマ市の主要神の緒神殿への奉納となっており,奉納物はそこから王の経営体に移譲された。一方の定期支給は,そうした主要神殿の他に,神格化した王や,他の群小の諸神に対しても為されていた。つまり,神殿は王の経営体とは別個の独立した組織と権威を有するも,その保護下にあったことが理解される。
献納を含む持参を扱う者の職名が明示される例は一例しかないが,その場合イシブ神官となっている。定期支給受領者は,グダ神官が担当しており,両者に相違があったようである。グダは,神を祭るという神官本来の意味だけでなく神殿所属の者を総称する場合があるが,一方のイシブは,神を祭る本来的な役割を担った者であった。ここに神殿の二重構造を推定する手がかりがあると思われる。