表題番号:1995A-053 日付:2002/02/25
研究課題15世紀のアウクスブルクの印刷語
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 藤井 明彦
研究成果概要
15世紀のアウクスブルク(ドイツ)の印刷語は既に同時代の人々から,主にその脱方言的指向の点で賞賛され,またその言語史的研究の重要性も,ドイツ語史の概説書などで幾度か強調されてきたが,今もってその精確な姿が明らかになっていないのは,これまでの端緒的研究がどれも必要な「細分化」を欠いていたためではないかと考えられる。このような研究史的状況をふまえた上で,次のような3つの言語的「差異」に注目して本研究は分析作業を進めて来た:(1)複数の印刷工房間における差異,(2)同一工房作製の複数の刊行物間における差異,(3)一刊本の内部(最初のページ~最後のページ)における差異。
1995年8月のドイツ語学・文学者国際会議(IVG)第9会総会(バンクーバー/カナダ)での口頭発表では,(3)の「刊本内差異」を,アウクスブルクの印刷業者ヨーハン・ベムラーの2つの刊行本('Belial', 'Regimensanitatis')を材料に,書誌学的・方言学的に実証・検討し,その際,これまで解明されていなかった当時の植字工程の分業法の一例(二人の植字工が交互に2度作業を担当する)を,いくつかの音韻ないし語の書記法を手がかりに明らかにした。1996年3月発行の『ワセダ・ブレッター』(早稲田大学ドイツ語学・文学会編)第3号所収の論文「Kurz nach 'Gutenberg' - eine neue Welt?(‘グーテンベルク’直後-新しい世界?)」は,その発表原稿に加筆したものである。
1996年度中に刊行予定の論文集「Gesellschaft, Kommunikation und Sprache Deutschlands in der fruhenNeuzeit(近世初期ドイツの社会・コミュニケーション・言語)」(ユディツィウム社)に収録される論文「ZurAugsburger Druckersprache im 15. Jahrhundert(15世紀のアウクスブルクの印刷語について)」は,本研究の問題設定・背景・方法,そして成果の一部を概略的に述べたものであるが,そこでは,総体的には当時の帝室官房(フリードリヒ三世・マクシミリアン一世治下)がアウクスブルクの印刷語にとって一種の規範的役割を果していたこと,ただしその言語規範への依拠程度はそれぞれの印刷工房,その工房の個々の刊行物,またその刊本の「内部」によって著しい差異があることを指摘した。