表題番号:1995A-044 日付:2009/05/21
研究課題レヴィナス哲学への現象学の影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 佐藤 真理人
研究成果概要
本研究の目的は,計画書に書いたように,「フッサール現象学の個別的諸問題(超越論的観念論,現象学的還元,志向性,時間,キネステーゼ,間主観性,受動性,等)がレヴィナス哲学の中でどのように影響し,どのように生かされているか,あるいはどのように変様されているか」を検討し,「レヴィナスがどこまでフッサールと歩みを共にしているのか,そしてどこでフッサールと袂を分かつのか」を明らかにすることであった。
この方針のもとに考察を進めるうち,フッサール現象学とレヴィナス哲学とをともに鋭く分析・批判しているジャック・デリダの所説を参照して,それに深入りする結果になった。
デリダは現象学に深くかかわり,かつそれを徹底的に批判する点でレヴィナスの思想と重なる面を有しており,しかも同時にいわば返す刀でレヴィナスをも根本から批判するという態度を示しているので,「レヴィナス哲学への現象学の影響」を考察する上でデリダは格好の視点を提供してくれるように思われた。その結果,本研究の具体的な歩みは,デリダによるレヴィナス批判の論文「暴力と形而上学」と,彼のフッサール研究書『声と現象』との所説を集中的に検討して,デリダ対レヴィナスの対決という様相のもとにレヴィナスの哲学の特性を浮き上がらせていくという作業になった。デリダとレヴィナスがとに深く関与しているフッサールとハイデッガーの微妙かつ難解な諸テーマを追求したために,成果の論文は,四者を論ずるという入り組んだ叙述の複雑なものとなったが,この作業によって,レヴィナスにおける現象学と倫理との分岐点,および両者の境界におけるレヴィナスの思索の特性をかなり明確にすることができたと思う。レヴィナスは,現象学を一面で乗り越えつつも,広い意味での現象学の枠内にとどまっているのである。同時にデリダの思想の特徴が多少なりとも理解されたのは有益なことであった。デリダの現象学批判者であって,厳密には現象学者とは言えない。