表題番号:1995A-036 日付:2002/02/25
研究課題苅宿仲衛の研究-自由民権家としての思想と行動
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 安在 邦夫
研究成果概要
苅宿仲衛は,幕末福島県浪江に神官の子として生まれ,宮城師範に学んだ後郷里に戻り,教員を務めた。やがて1880年代,全国に澎湃として沸き起こった自由民権運動に参加し,三度捕縛・投獄された(福島事件・加波山事件・大阪事件)。しかし,いずれも無罪であった。苅宿の生涯は,大きく次の三期に分けられる。
(1) 生誕から教師となり,教育に携わった時期(1854~1879)
(2) 自由民権運動家として活動した時期(1880~1900)
(3) 地域の教育や産業振興のため尽力し没するまで(1901~1907)
いずれの時期の活動も看過し得ないものがあるが,全国的視野から見て,その足跡が高く評価されるのは,(2)の自由民権運動家としての活動である。同時期の活動は,さらに次のように三期に分けられる。
(1) 民権結社北辰社々員として活動した時期(1880~1881)
(2) 福島自由党の結成に参加し,幹部として活動,やがて前記三事件へ連座した時期(1881~1886)
(3) 三大事件建白運動,大同団結運動,民党運動を推進しつつ,県会議員として活動した時期(1886~1900) この苅宿仲衛の事跡を伝える史(資)料は現在福島県歴史資料館と郷里浪江町の実家に分轄保存されている。
前者収蔵の史(資)料は,「北辰社ニ関スル書類」など主として自由民権関係のもの299点で,すでに整理済みであり,「苅宿仲衛関係史料目録」として目録も作成されている(誉田宏・曽根弓子「自由民権家苅宿仲衛関係資料について」,福島史学会編『福島史学研究』復刊第32・33号,1981年)。浪江町の実家保存の史(資)料は主に書翰類(苅宿宛)で,その数は数千点におよび,未整理の状態である。
特定課題研究助成費(個人研究)を付与された1995年度は,次の三点を研究目標とした。第一は,従来進めて来た研究を論文としてまとめること,第二は,福島歴史資料館収蔵の史料を可能な限りコピー(あるいは写真撮影)すること,第三は,第二の作業を踏まえ,一点でも多く史料解読に努めること,以上である。助成費は,記すまでもなく個人の財政負担を越える第二の目標達成に当てさせて頂くことにした。したがって,一~三の中では,第二の課題への取組みに力点を置くこととした。
第一の目標の達成状況は,「終了報告書および決算報告書」中の「研究成果の発表」の項に記した通りである(1.「三大事件建白運動と大同団結運動」,江村栄一編『近代日本の軌跡2. 自由民権と明治憲法』所収,吉川弘文館 1995年,2.「立憲制導入をめぐる民衆の意識と運動」,アジア民衆史研究会編『東アジアの近代移行と民衆』1995年,3.「自由民権派の条約改正問題認識」,早稲田大学社会学研究所編『社会科学討究』第121号,1996年)。
第二の点は,7月21日~23日,2泊3日の日程で福島歴史資料を訪れ,研究上必要・重要と考える史料136点の複写を行なった。同資料館収蔵史料の複写作業は完了である。なお同作業の実施(史料の選定・コピー・整理)にあたっては,外村大(早稲田大学社会科学研究所助手),中嶋久人(早稲田大学大学院文学研究科博士課程),金井隆典(同大学大学院政治学研究科博士課程),および田崎公司(千葉大学講師)各氏の助力を得た。
第三の課題に関しては,前記諸氏とともに8月以降例嘉と考えている。また,浪江町所在の史(資)料についても可能な限り整理を行なうことを今後の課題としたい。
1995年度特定課題研究助成費を付与されたことにより,「苅宿仲衛研究」の基礎作業を果たすことができた。
記して大学に感謝の意を表す。