表題番号:1995A-033 日付:2002/02/25
研究課題1920年代パリのアヴァンギャルド
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 谷 昌親
研究成果概要
今年も,主要テーマを見据えつつ,その手前の部分に取り組む結果になった感がある。まず,以前から研究してきているレーモン・ルーセンだが,彼についての新資料が出てきたことで,〈1920年代パリのアヴァンギャル〉を考える際の重要な要素のひとつである「移動」というテーマとの関連で論じることが可能になった。
旅がルーセルの作家活動にもたらした影響は大きい。この観点から,初期のルーセルが体験した列車事故の影響を「反復の遊戯」と題した論文にまとめた。また,パリ・ダダの先駆的存在といえるアルチュール・クラヴァンも,フランスからスペイン,さらにアメリカ,メキシコと移動をつづけた作家だが,資料がほとんど残されていないクラヴァンの生涯をたどるという作業も続行中であり,近年中には一冊にまとめたいと考えている。
それから,これはまた別の問題でもあるが,都市とそのなかでの移動,すなわち都市の遊歩者もまた,1920年代のアヴァンギャルドを考える上で重要な要素であり,その観点から,探偵小説とシュルレアリスムとの関係も調べつつある。
ところで,シュルレアリストのなかでももっとも「移動」に敏感だった者のひとりがミシェル・レリスだろう。ダカール=ジプチ調査団に加わって以来,民族学者としての道を歩みはじめた彼は,西欧文明とは別の可能性をいわゆる「未開文明」のなかに追い求めた。それは彼にとっての「詩」の探究でもあり,また1920年代にわき起こったアヴァンギャルド運動の方向性とも一致するものだった。そうした「移動」のもたらす異文化との接触が多様性へと繋がることは言うまでもない。そうした意味では,最近とみに注目されるようになってきたクレオール文学もまた,アヴァンギャルド運動の延長上に考えることができよう。以上のような観点を念頭におきつつ,レリスやクレオール文学について短い評論を書いたが,それをさらに発展させていければと考えている。