表題番号:1995A-029 日付:2006/12/27
研究課題日本語の取り立て詞と英語のfocus表現の意味論的分析と語用論的比較対照研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 原田 康也
研究成果概要
本研究においては日本語の取り立て詞(「・・・だけ」「・・・さえ」「・・・も」「・・・しか・・・ない」を含む文の意味論的分析とその解釈における語用論的メカニズムを英語におけるonlyやevenなどを含む文の意味・解釈と比較対照しながら,コーパスにおける資料などを元に実証的に検証し,特に日本語と英語における意味・用法や統語法・意味論上の特徴を比較対照をするとともに,その言語横断的な共通性を言語理論上の観点から明らかにしようとした。その中で,黙示的な条件の構成と解釈が重要な働きを持っていることが次第に明らかになった。
1991年度在外研究員としてStanford大学CSLI (Center for the Study of Language and Information) 滞在中に松下電器産業東京研究所野口直彦氏とこのテーマに関連して共同研究を始め,「だけ」とonlyについていくつかの論文をまとめ学会発表を行ってきたが,今回の研究において「さえ」と数量表現との関連を中心に,英語の対応する表現との比較検討を加えながら,取り立て詞全般について考察を深めようとしてきた。
また,1994年度から1995年度にかけて文部省科学研究費国際学術研究「英語と日本語の状況依存性に関する認知科学的立場からの比較対照研究」の助成を受け,国内の認知科学,計算言語学,情報科学の研究者とともに,スタンフォード大学CSLIの研究者との共同研究を始めたが,その中で特にSRI, InternationalのResearchLinguistであるMark Gawron博士とこの問題に関して直接あるいは電子メールなどを通じて議論を続け,われわれの問題意識を共同執筆論文にまとめた。
自然言語の統語理論的分析に際しては,その理論の限界をさぐるために,ある程度人工的例文を構成してあえてその文法性を判断するという作業も避けられないが,従来あまり分析されたことのない項目について,やみくもに英語の分析を日本語にあてはめるこうした研究方法は根本的に批判される必要がある。そのためには,多くの実例の中から重要な例文を持ち出して理論を批判するとともに,計量的分析に基づいてその基本的性質を明らかにする作業も必要である。
今年度の研究においては早稲田大学大学院文学研究科の本多久美子氏との共同作業により,関連するいくつかの項目に関して実際に文献に現れた大量の例文から問題点を抽出することができた。その中から,focusの問題とも関連して,自然言語の意味論的表示における変項の取り扱いが大きな課題として浮上してきた。現在,この問題についてさらに検討を続けている。