表題番号:1995A-017 日付:2002/02/25
研究課題手形抗弁の基礎に関する学説の動向とその問題点
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 尾崎 安央
研究成果概要
近時,手形法学においては,その基礎理論の再考がクローズアップされており,過去の論文をまとめた著書の発刊が相次ぐなか(川村正幸・手形抗弁の基礎理論,木内宜彦・手形抗弁の理論,高窪利一・有価証券法研究(上)(下)など),それらも等しく手形法理論の基礎を探求している(折しも,戦前の名著,納富義光・手形法に於ける基本理論も復刻された)。研究者は,これまでいわゆる契約説立場から手形法の諸問題を研究してきたが,有価証券法理論としてその前提的理解の当否に疑問を感じることが少なくなかった。そこで,全く反対の理論的前提に立つ創造説を採用したならばどうなるか,とのシミュレーション作業を行うことを計画し,権利行使段階に限定して検討を加えたのが本課題の目的であった。権利の成立や権利と証券の結合を与件とするとき,権利行使段階では人的抗弁だけが問題となり,その前提がない場合でも,権利の帰属さらには権利り存在すら抗弁関係論に逢着することが確認できた。これは一面見やすい道理であるが,そうだとすれば,いわゆる証券上の抗弁(物的抗弁)以外の抗弁事由の成否につき,手形行為の成否とは別に利益衡量の観点から抗弁を分類化ができないかと考えるに至った。
しかし,このアイデアは未だ完全な検証を経ていない仮説にすぎず,各論的な考察も必要である。さしあたり,手形行為における意思表示の瑕庇・欠缺についての検証の成果を近々発表する予定であり,その後,引き続いてその仮説と判例・学説のすり合わせ等の検討を継続したいと考えている。