表題番号:1995A-003 日付:2002/02/25
研究課題プルーストとアルベルチーヌ創造の諸問題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 徳田 陽彦
研究成果概要
1987年にN・モーリヤックが出版した未発表タイプ原稿『消え去ったアルベルチーヌ』は,著者が主張するような,プルーストが死の直前に書き直した“最終稿”ではなく,雑誌「レズーヴル・リーブル」に掲載するための抜粋であるという仮説を,つぎの観点から検討した。
1. タイプ原稿における削除の方法には一定の方向がある。すなわち,『失われた時を求めて』の主要データ「無意識的記憶」と「忘却」の削除である。これは,抜粋に再度反対するガソマールに配慮した結果といえよう。
2. できるかぎり多くの読者に作品を読んでもらいたいと願う作家プルーストにとっての抜粋の意味。注文に逐一応じるプルーストを書簡を通じて捉え,抜粋の内容・形式が自在であった事実に論及した。この自在さこそが,抜粋とみなされるタイプ原稿のなかで女主人公の死んだ場所を容易に変更した要因であったと考えられる。
3. 現行版とタイプ原稿の文体比較。タイプ原稿は,話者の感情表現を省略したジャーナリスティックな要約型の文体で,抜粋にふさわしいものであった。
その他,「レズーヴル・リーブル」説に異を唱えるミイ教授の論考に反論するとともに,死後出版の現行版にみられる無意志的記憶のテーマとしての未完成さに言及した。
以上のことを論文にして公表し,研究会でも口頭発表をおこなった。