表題番号:1994B-038 日付:2002/02/25
研究課題小脳の発生と可塑性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 吉岡 亨
(連携研究者) 人間科学部 専任講師 井上 宏子
(連携研究者) 人間総合研究センター 助手 吉田 明
(連携研究者) 理工学部 助手 高木 博
研究成果概要
記憶・学習のメカニズムを調べる方法としてはLTD(長期抑圧)現象を電気生理的に観測することが主流であった。しかし,我々は古典的条件付け法による解析こそがこの研究の基本となると考え,この2年間マウスの古典的条件付け(瞬目反射)に取り組んできた。本年に入りようやくシステムが完成した。この条件付けは,マウスの瞼に刺激用と記録用の計4本の針金電極を装置し,マウスに音刺激と同時に電気刺激を与えて訓練すると,やがて音刺激だけで瞼を閉じるようになる。この反射反応は数ヶ月も継続する。また,音刺激だけを高頻度に与えつづけると,やがて音刺激に全く反応しなくなる(消去)。こうした条件付けの方法を確立した上で,我々は種々のノックアウトマウスに条件付け反射を起こさせ,記憶・学習にかかわる分子の同定することを試みた。
興奮性グルタミン酸受容体にはNMDA型,AMPA型,mGluR型の存在が知られ,その構造や組織内分布はすでにわかっている。我々はまずNMDAノックアウトマウスについてその記憶能力を検定した。その結果,小脳に局在するA,CおよびAC型をノックアウトしたマウスでは,明らかな記憶力の低下を示したが,その大きさは50%にとどまった。この能力低下の大きさは,これまで確認されているmGluRやGFAP(グリアに存在する酸性タンパク)のノックアウトマウスの場合とほとんど変わらなかった。そこで,我々はグルタミン酸受容体よりもニューロン内部の方が記憶形成により有効であると考え,ras遺伝子のノックアウトマウスの記憶能力を検定した。
しかし,いまだ明確な答えを出すにはいたっていない(実験例が少ないので)。この結果は7月頃には出る予定である。我々は,さらに重要な酵素と目されているホスホリパーゼCのノックアウトマウスを作成中である。