表題番号:1994B-034 日付:2004/11/07
研究課題宇宙の構造形成問題の総合解析-その物理的素過程研究からのアプローチ
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 前田 恵一
(連携研究者) 理工学部 教授 大場 一郎
(連携研究者) 理工学部 教授 相沢 洋二
(連携研究者) 教育学部 教授 大師堂 経明
(連携研究者) 理工学部 助手 金長 正彦
(連携研究者) 理工学部 助手 宮坂 朋宏
研究成果概要
観測されている銀河や銀河団などの宇宙の大構造は現代科学における最も大きな謎の一つである。「COBEなどの観測衛星が明らかにした『凸凹のほとんどない宇宙初期』からいかに『現在の構造』ができたのか?」というのが『宇宙の構造形成問題』である。一番自然なシナリオは,「宇宙初期の密度揺らぎが自己重力で成長し,構造が形成される」とする説であるが,現在の大規模構造を完全に説明するまでに至っていない。この標準的理論の修正版を含めこれまで多くの試みがなされているが,我々は,まったく新しい観点からのアプローチが必要と考える。つまり,宇宙の構造形成問題を物理の基礎的な問題ととらえ,関連する物理的素過程を明らかにしなければその本質が解明されないのではないかと考える。より具体的に述べると,宇宙の構造形成問題を系統的,かつ総合的に研究するには,まずその物理的素過程に立ち戻り,各方面からいろいろな可能性を考え直す必要があると思われる。その際,現在最も必要とされる分野は,揺らぎの起源としての位相欠陥や量子場の揺らぎなどを明らかにする素粒子理論,宇宙の大規模構造を考える際に欠かせない宇宙論や一般相対論,およびその観測的データの提供,さらに自己重力多体系の緩和現象や構造形成問題の新しいアプローチとしてのカオス理論などが考えられるが,早稲田大学にはちょうどこの3分野に第一線で活躍する研究者がおり,特定課題の共同研究を行うにふさわしい状況にあった。そこで,本研究では,次の3つの基礎物理学的観点から構造形成の本質的問題を探り,宇宙の構造形成問題解明に迫った。
(1)宇宙初期の相転移・インフレーションを含む素粒子的アプローチ。
(2)宇宙の非線形構造形成問題を一般相対論を基礎に考察。
(3)自己重力多体系の構造形成問題を非線形物理学,特にカオス理論の観点から考える。
94年度は,まず構造形成問題の基礎過程と考えられる3つの各アプローチに対し,グループに分かれ研究を進めた。素粒子論的観点から量子トンネル現象の基礎的理解およびその宇宙の相転移にともなう位相欠陥,ミニブラックホール形成問題との関連を大場が,また曲がった時空における量子場の振舞いを確率過程量子化の方法を用い金長が,さらにそれに基づきインフレーション宇宙論における密度揺らぎの起源の問題を前田,大場,金長が解析した。また,もう一つの素過程のカオス的アプローチとして,自己重力多体系における構造形成問題を相沢が,より一般的な構造形成問題とカオス理論の関係を宮坂が考察した。その宇宙論へ応用に関しては,前田が加わり検討を行った。第3の宇宙スケールの構造形成に不可欠と考えられる非線形構造形成の一般相対論的アプローチに関しては前田が,また宇宙背景輻射や銀河分布などの現在の構造に関する観測的情報は大師堂が担当した。これらの研究において,大規模なシミュレーション計算は不可欠で,購入したワークステーションおよびスーパーコンピューターを併用し,研究を進めた。また,95年度は,前年度の研究成果を持ち寄り,各アプローチの相互検討を行った。その後はお互いの連絡を密にし,総合的観点から各アプローチを共同で解析し,どの素過程が最も構造形成問題において本質的かつ重要であるかを調べ,宇宙の構造形成問題解明の可能性を探った。