表題番号:1994B-002 日付:2002/02/25
研究課題ヨーロッパ統合と教育概念の変革に対する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 石堂 常世
(連携研究者) 政治経済学部 助教授 沖田 吉穂
(連携研究者) 第一・第二文学部 助教授 梅本 洋
研究成果概要
本研究は,EUの政治的・経済的統一と共に推進されている教育領域での変革とその動向の研究である。EUの教育基盤は「ヨーロッパ教育空間」1'espace educatif europeen と称されているが,この「空間」において現在共有され,今後共有されていく「市民」意識の変革を問題とした。最終目的は,EU教育プランを通して「ヨーロッパ市民」の育成がどのように立案され,実施に入っているか,その理念と哲学を研究するところにおいた。
1. 一般にドイツに集中しているEU研究に対して,本研究の焦点はフランスにおかれた。その理由は,EUの教育の計画や政策のリーダーシップは,文化的にみてフランスにあるとみたからである。ある意味で,EUを可能にしたのは,共通の文化,共通の教養(culture)のためである。ひとつは,ギリシャ・ローマ文化,2つは,キリスト教,3つはルネサンス,4つは市民社会(の成立)である。これらは,加盟国の学校教育,教育一般をアクセス可能とする要因であるが,フランスは,いずれの要因においてもその本流に位置する。
2. 従来,EC,EUの教育面での研究は,エラスムスプランに代表される域内留学制度の研究か職業免状・資格の域内共通化問題に重点がおかれていた。本研究は,政策・制度分析に終始することを越えて,「ヨーロッパ市民像」の概念と,そのための教育実践上の変革を明らかにした。ひとつには,「ナショナル」な市民から「グローバルなエスパス(espace)の市民」への意識転換が,どのような教育努力を生み,どのような実践を開始しているかという問題となる。この場合,伝統文化的にみたヨーロッパの統一性と,加盟各国民・各民族の多様性との葛藤,接合,あるいは融合の関係構造の分析がなされた。ふたつには,ヨーロッパの教育の歴史的発展過程からくる伝統的統一性と同時に,加盟各国,各民族の多様性との共生,調和という問題がある。したがってEU教育のキーワードは,多様性のうえの統合性となり,それが,ヨーロッパ「市民像」の特色となっている。
3. 最後に課題となったのは,教育内容,教育課程の刷新である。これについては今後も持続的な研究調査を要するが,(1)初等教育からの外国語教育の推進,(2)「公民教育」「歴史」「地理」の教育にみる刷新内容の変化,(3)「人権教育」「環境教育」「生命倫理教育」といったいわゆる価値教育の調査が効果を上げた。
最後に,今後の課題として研究を深めるべきは,「21世紀のユマニテ」へ向けての教育内容の刷新と精選の行方,ならびに,「ヨーロッパ市民像」が「世界市民像」に直線的に発展するか,それともヨーロッパに限定された閉塞的な市民像に止まるのかである。教科書ならびに教育実践を調査研究することによってさらに解明したい。